「あ、凪ちゃん。来たよ。
猿野くん。」
イタイトコロ
「な〜〜ぎさ〜〜〜んvv」
「てめえ猿野!!凪にベタベタすんじゃねえっていつも言ってるだろ!」
野球部のいつもの風景。
今日も1年の猿野くんが、わたしと同じマネージャーの凪ちゃんに声をかけて。
そして同じ1年マネージャーのもみじちゃんが凪ちゃんに近づく猿野くんにお仕置き。
初めて見た時は、すごくびっくりしたけど、今ではすっかりいつもの光景として慣れてしまった。
異常も毎日あったら日常…ってとこかな?
でも、最近気になる事がある。
それは、もみじちゃんが猿野くんを殴ったり蹴ったりした後の、痛そうな顔だった。
どうしてもみじちゃんのほうが痛そうなんだろ。
「うおら〜〜漢蹴り!!」
「ぐおぶっ!」
「わ〜〜〜〜猿野くん!!」
「猿野さんっ!!」
今日も見事にもみじちゃんの蹴りが決まる。
猿野くんは、もみじちゃんの蹴りに数メートルほど飛ばされ、子津くんと…凪ちゃんが傍に駆け寄った。
しばらくすると、猿野くんは気がついたみたいで。
牛尾主将が怒る、という子津くんの説得を受けて、練習に戻っていった。
…なんだかんだ言っても猿野くんてかなりタフみたい。
そう思って、ふともみじちゃんに視線を移す。
「…はあ…。」
すると、もみじちゃんはまた痛そうな顔をして、小さくため息をついた。
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「お疲れ様〜〜!!」
「お疲れっした〜〜!!」
そんなこんなで部活も終了し、部員も帰り、私たちも帰ろうと言う時間になる。
ふと1年生のほうに眼を向けると。
凪ちゃんからもみじちゃんに何か話をしていた。
女子マネージャーはそんなに人数もいないし、その会話は私の耳にも自然に入ってきた。
「ねえ、もみじちゃん…いつも私の心配してくれるのは嬉しいけど…。
あんまり猿野さんに酷い事…しなくても…。」
「…いーんだよ!ああいう女たらしは凪みたいに優しくしてたら付け上がるぜ?」
「…うん、でも…やっぱり蹴ったりしたら…。」
めずらしく凪ちゃんは引き下がらない様子。
その様子に、私も気がついた。
なんだ、両思いなんだ。
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「かの子、どうしたの?」
「あ。」
帰り道、なんだかぼうっとしていた私に、友達の未月ちゃんが声をかける。
「なんか今日はぼ〜っとしちゃってさ。
かの子はいつも真面目にやりすぎだから疲れてんじゃない?」
「ん〜そんなこともないと思うけど。
ごめんね、未月ちゃん。」
「いや、謝られることじゃないけど。」
そんな風な事を言いながら、ふに落ちない様子の未月ちゃんと別れた。
なんだかさっきの凪ちゃんともみじちゃんの様子が頭から離れない。
なんでか分からないけど。
ただ凪ちゃんも猿野くんのこと好きなんだなって気づいただけ。
猿野くん。
いろんな意味で1番目立ってる野球部新入部員。
いつも騒がしくて、私にはちょっと苦手かなっていう感じの子。
だけど、思ったよりも優しいところもあって。
何度か、マネージャーの仕事を手伝ってくれたり。
ああ、いつか階段から落ちそうになってたのを支えてくれたりってこともあったっけ。
『栗尾先輩、大丈夫っすか?』
って言って、気遣ってくれた。
その時、カッコいいなとか思って…。
あ。
『栗尾先輩、大丈夫ですか?!』
あの時、もみじちゃんが一緒だったっけ。
『猿野はとっとと離れろ!』
そう付け加えてた。
それってちょっと失礼じゃないかなあと、私も思ったっけ。
それで、猿野くんもあの時。
『それはねーだろ?』
いつもみたいにふざけた声じゃなくて、一瞬冷ややかな声で、もみじちゃんに言葉を返していた。
その時の猿野くんの顔は見れなかったけど。
はっきりと覚えている。
もみじちゃんがその時驚いたような、悲しそうな顔をしていた事を。
#############
「あれ?」
ふと気づくと、家の近くの公園。
そこに、さっきまで考えてたもみじちゃんの姿。
ベンチに座って、俯いてる。
さすがに気になって、私はもみじちゃんに声をかけた。
「もみじちゃん?」
「え?!」
突然声をかけたせいか、もみじちゃんはびっくりして顔を上げた。
その顔は、涙で濡れていた。
「く、栗尾先輩…。」
「…泣いて、たの?」
もみじちゃんは泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、また俯いてしまう。
「ねえ、よかったら…話を聞かせて?」
いつも強気な後輩が泣き崩れている様子に、ほおっておけるはずもなくて。
私は、もみじちゃんの横に座った。
そして、もみじちゃんが落ち着くように少し背中を擦ったり。
恥ずかしくないから、ともみじちゃんが口を開くのを待った。
「…オレ…。
可愛くないですよね…。」
「…?」
もみじちゃんはゆっくりと話し出した。
「凪みたいに…可愛くなくて…いつもあいつのこと…殴ったり蹴ったり…。
酷い事ばっかりして…。
酷い事も言って…。全然…女らしくないし…。」
「…猿野くんのこと?」
わたしはうすうす気づいていることを口にした。
「…!!」
もみじちゃんは驚いて、こう言った。
「…どうして分かったんですか…?
猿野のことって…。」
「だって、もみじちゃんがいつも殴ったり蹴ったりしてるのって猿野くんしかいないし。
(…たまに虎鉄くんとかにも鉄拳くりだしてるのけど…。)
それに、猿野くんを殴った後とかもみじちゃんすごく痛そうな顔してたから。
…気づいてなかった?」
「…そっか…。オレ、痛そうな顔してましたか…。」
もみじちゃんは、悲しそうに口元を上げ、また俯く。
「あいつが…凪の事呼ぶたびにすっごく苦しいんです…。
だからそれをごまかしたくて、感じたくなくてふりきるみたいにしてあいつを殴って…。
でもそうするたびにもっと苦しくなった…痛くてたまらなくなったんです。」
「もみじちゃん…。」
「ホントはずっと分かってたんです。
凪を護るって理由をつけて、少しでもあいつと一緒にいたかった。
凪とあいつのデートを邪魔しに行った時だって…
ホントはあいつが凪と二人になるのがいやだったから…だから…。」
そこまで言って、もみじちゃんは泣き出した。
「…っでも、それ、全部あいつに嫌われる原因なんですよね…。
あいつ、凪のこと好きだし…だから、オレのことなんて…ハナっから見えてないし…。
こんな、暴力ばっかりふるう女、好きになんかなってくれな…っ。」
「もみじちゃん…。」
搾り出すように嗚咽するもみじちゃんを、わたしはただ見守る事しか出来なかった。
もみじちゃん。
もみじちゃんも猿野くんのこと大好きだったんだね。
私、なかなか気づけなかった。
ごめんね。
こうやって話を聞くくらいしかできなくて・
ごめんね?
もみじちゃんの痛み、よく分かるよ。
私も、今日気づいちゃったから。
あの日階段で感じた痛みの意味を。
end
はい、いつも大変遅くなりましてまことに申し訳ありませんでした!m(_ _)m
想さま、大変お待たせしました。ほんとうにすみません!!
さて、途中まで全く名前が出ていなかったので非常に分かりづらかったのですが、
今回の文章、なんと2年マネ、栗尾かの子センパイの視点です。
結局栗尾先輩も天国ラブってなオチにしてしまいました。
うちの天国君はなにがあろうと総受っていうか総想われです!!^^;)
男子をほとんど出していないので、ノーマルな小説になりましたね…。
ちょっとどころかかなり物足りなさを感じられるかもしれませんが、お許しいただけると…幸いです。マジで。
ながながお待たせしてこんなんですみません!
こんなサイトですが、またお越しいただけたら嬉しいです。
では、言い逃げで失礼ですが今日はこの辺で!!
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